教育課程・高校地歴科新科目「歴史総合」「日本史探究」

教育課程(普通教科・科目)

必履修科目(必修得科目の意味ではない)と卒業認定

 表の「標準単位数」の〇印は必履修科目、囗印は囗の中から1科目を選択して必履修する科目(理科を除く)。理科の選択必履修①は「科学と人間生活」1科目と「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」から1科目選択、選択必履修②は、「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」から3科目選択(表「理科」の囗から3科目)。

 必履修科目は卒業のために必ず履修(授業を受ける)しなければならない。しかし、必履修は必修得の意味ではない。必履修科目の修得(単位を取ること)はできなくても3年間で74単位以上修得し、特別活動の成果が認められれば卒業できる。(1単位は年間35時間(実授業数は少ない場合がある)だが、そのうち何時間授業を受ければ履修したと認められるかは各高校の教務内規で定められている(実授業数の3分の2など)。)

 学習指導要領は、1日6時間・週5日で30時間、3年間で週90時間を標準とする。ここから、LHR3時間を除くと87時間(単位)である。この87単位すべてが修得できなくても、74単位以上修得できれば卒業できる。学校で必要がある場合は単位を増加できる(1日7時間など)が、この場合も、74単位以上修得できれば卒業できる。

 以下の表の画像はクリックすると拡大します。

 表の他に、次期学習指導要領では、「総合的な探究の時間」(3~6単位。現行学習指導要領では「総合的な学習の時間」)は「すべての生徒に履修させるものとする」と定められている。

普通科・大学進学主体

文部科学省「学校基本調査」(令和2年12月)

大学(学部)・短大(本科)進学者 573,209人(18歳人口の58.6%)

うち大学(学部)進学者 529,009人(18歳人口の54.4%)

2021.1.28

 

普通科・地歴科の教育課程

「歴史総合」・「日本史探究」の創設。授業方法の深化。

 次期学習指導要領は、2020年度小学校、2021年度中学校、2022年度高等学校と順次実施される。次期高等学校学習指導要領が公表され地歴科は大きな改訂が行われる。世界史必履修を廃止し、「歴史総合」・「地理総合」を新設して必履修とし、選択科目として「日本史探究」・「世界史探究」・「地理探究」が設定された。

 

 昔の「日本史」・「世界史」、近年の「日本史B」・「世界史B」の教科書は原始・古代から学習するため、日本史でいえば、明治時代くらいまでしか授業が進まず、現代(戦後史)との関連で重要な第一次大戦から第二次大戦以降の学習が不十分になりがちだった。

 近現代史を学習する「歴史総合」は、内容的には、近現代史を学ぶ現教育課程の「日本史A」・「世界史A」を統合した科目になる。これまでのように日本史と世界史を別科目で学ぶのではなく、両者を連関・統合させた科目が新設されることは、高校地歴科では画期的だ。大学では、日本史、東洋史、西洋史の専攻があり、アジア、アフリカ、中南米、オセアニアの歴史もあり、これらの歴史と空間を総合的に学習することになる。

 科目の新設による授業内容の変更にとどまらず、授業方法にも工夫が必要となる。講義形式中心の系統学習だけでなく、生徒の実態に即した、主題学習、「主体的で対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を導入した授業方法、資料の収集・分析、ICT活用等を通して、思考力、判断力、表現力を涵養する問題解決型学習が今まで以上に強調される。

 

地歴科、歴史に厳しい改訂

 これまで、「日本史A」2単位、「世界史A」2単位で実施していた内容を「歴史総合」2単位で実施することになる。歴史の流れや同時代の他地域との関連を学習することに重点を置き、語句数も減らさなければ時間不足となる。

 これまで、原始・古代~近現代を学習する「日本史B」の標準単位は4単位だった。次期の「日本史探究」等の3つの「探究科目」の標準単位は、同じ学習範囲で3単位に減少している。他教科はこれまでの単位が維持されているので、単位数が教員定数を決めることを考えると地歴科にとって大変厳しい改訂となっている。学習範囲についても、「歴史総合」と範囲をシェア(近現代と前近代を分ける)する必要があるかもしれない。

 日本史が専門の教員は地理を教えるのが不得意な教員が多く、地理が専門の教員は日本史が不得意な場合が多い。これまでの必履修科目は、世界史2単位、日本史・地理からの選択2単位だった。すなわち歴史と地理の割合は3対1であった。この必履修科目の割合が、次期では「歴史総合」2単位、「地理総合」2単位で1対1となる。

 必履修科目しか実施しない場合が多い専門高校では、「地理総合」が必履修になるので、歴史の教員が不得意な地理の授業を担当したり、地理の教員の採用を増やす必要がある。普通科理系でも、理系の内容が含まれる「地理総合」が必履修となり、理系の探究科目は1科目となるので、選択では「地理探究」の選択が増えることが予測される。次期教育課程の実施により、相対的に日本史・世界史担当の教員が過剰となり、地理担当の教員が不足することになる。

 大学の文学部の進路として高校教員の占める割合が大きい。次期学習指導要領により、日本史・世界史・東洋史専攻の学生の教員採用枠が減ることになる。一方、地理の専攻は文学部、理学部、教育学部にあり、採用枠が広がるとみられる。

 このように次期教育課程は、大学の歴史学の研究室に影響を及ぼす可能性がある。しかし、一番の課題は、高校で歴史を深く学ばないで学生・社会人となる生徒が増えることである。

 

次期教育課程のスケジュール 

 2018年度は次期指導要領の周知・徹底期間となり、2019年度から移行期間となり、2020年度に教科書検定、2021年度に教科書の採択が行われ、2022年度の1年生から年次進行で実施という工程表が公表されている。

 大学入試センター試験は2020年度(2021年1月実施)から大学入学共通テストに替わる。地歴科では、知識を問う問題以外に、資料・地図等を使って思考力・判断力・表現力を問う出題が増加するとみられる(次期指導要領による共通テストは2024年度(2025年1月実施)から)。

 次期指導要領による地理歴史科・公民科の基本的な教育課程は、普通科では、1年で必修の「公共」・「地理総合」または「歴史総合」、2年で必修の「地理総合」または「歴史総合」と選択の日・世・地の「探究」科目、3年で選択の日・世・地の「探究科目」と「倫理」・「政経」のパターンが多くなると推察する。文系で探究科目2科目、理系で探究科目1科目の選択が多くなると思われるが、大学入試の改革をみながら進められるであろう。

 中高一貫校では、中学3年で高校1年の「公共」まで終わり、1年早く「歴史総合」、「日本史探究」などを履修する可能性がある。

 

高校普通科、3科に再編…「学際融合」「地域探究」の2学科新設容認(2020.7.15 読売新聞配信)

 「文部科学省は、高校生の7割が在籍する高校普通科を再編し、文系・理系などの枠組みを超えた「学際融合学科(仮称)」と地域社会の課題解決を目指す「地域探究学科(同)」の2学科の新設を認める方針を固めた。」(読売新聞2020.7.15配信)

2020.7.15更新

 


専門高校(農業高校・工業高校・商業高校など。就職主体)

専門高校で学んでいる生徒はどのくらいいるのだろうか

高等学校学科別生徒数・学校数(平成29年5月)全日制・定時制(通信制を除く)

文部科学省「学校基本統計」(学校基本調査報告書)

文部科学省「学校基本統計」

 

高校生372万人のうち、普通科で73.0%、職業学科(専門高校)で18.4%、総合学科で5.4%、その他専門学科で3.2%が学んでいます。

 

専門高校で予測される地歴・公民の教育課程

 専門高校では、近年は大学や専門学校の進学者が増えているものの、専門高校の基本的な教育観は、卒業後にすぐに就職して社会で活躍し、社会に貢献できる人材の育成にある。したがって教育課程も就職を考えて編成される。

 専門高校卒業生の大学や専門学校への進学の中心は推薦入試(学業・資格・特別活動・部活動等を推薦条件とする)となっている。

  現行教育課程の改訂により、公民の必履修は現行の「現代社会」(または「政治・経済」・「倫理」)が次期は「公共」となる。地歴は、「世界史A」・「日本史A」が統合されて必履修「歴史総合」となり、自然科学系が含まれる「地理総合」と2科目が必履修となった。 次期教育課程地歴科は専門高校には″福音″であり、編成が容易となる。

 専門高校では専門科目の単位数(3年間で25単位以上)が多い。また、放課後の実習や部活動が重視されているため、1日6時間授業(単位)を超える教育課程は組みにくい。このため専門高校における普通科目は、必履修科目を中心とし、増加単位を極力抑えた教育課程が編成されている。

 

専門高校の地歴科は地理が増える

 次期学習指導要領地歴科は、「歴史総合」の創設により選択科目が無くなり、専門高校の教育課程編成はシンプルにできる。しかし、「歴史総合」と「地理総合」が各2単位で必履修になった。現行が「世界史A」必修、「日本史A」と「地理A」選択で、歴史3・地理1の配分であったことを考慮すると、次期は歴史1・地理1の配分となり、歴史と地理の授業内容のバランスを崩すことになった。就職する生徒にとっては、高校は、社会生活を営むための基礎学力を身に付ける学校教育の最後の場となる。歴史の学習時間の減少は問題を残し、今後の課題となろう。

 世界史必修により、日本史・地理の選択必履修で地理を選択すれば日本史の学習をしないので、現在の40代以下に、高校レベルの日本史を知らない社会人を増やしたが、次期教育課程では、特に専門高校で、歴史を知らず俯瞰できない社会人を増やすことになる。

 

専門高校の教育課程例

《現行教育課程例》

 山口県内の専門高校(農業・工業・商業等)の中心校となっている学校で、HP(平成30年度)に教育課程が公表されている、山口県立山口農業高校・山口県立下松工業高校・山口県立防府商工高校・山口県立宇部商業高校の教育課程(全日制)を管理者が総合した。

 

1年次 「現代社会」 2単位

2年次 「世界史A」 2単位

3年次 「日本史A」または「地理A」(学校選択または個人選択) 2単位。 (他教科との選択科目として「政経」 2単位) 

 

 中学3年の公民的分野の学習を連関・深化させるため、必履修の「現代社会」(専門高校では「政経」・「倫理」4単位の履修はむつかしい)を1年次に履修する。専門高校では選択必履修の「日本史A」と「地理A」を生徒の自由選択にせず、学校選択にしているところが多い。

 日本史プロパーの教員は、世界史はどうにか教えることができても地理は苦手とする。また、地理プロパーの教員は、日本史が苦手な場合が多い。「日本史A」と「地理A」のどちらを学校選択科目にするかは、教員のプロパーも連関して専門高校における教育課程編成上の大きな課題となっていた。

 2年次と3年次の履修は、必履修の「世界史A」(中学までは系統的に学習していない)を2年次に履修し、その学習を発展・深化させて選択必履修の「日本史A」(中学の歴史的分野の深化)または「地理A」を3年次に履修するのがよいのではないか。また、就職試験を考慮すると時事問題を扱う「政経」の選択を3年次に入れるのも効果的である。

 

《次期教育課程例》(管理者作成私案)

1年次 「地理総合」 2単位

2年次 「歴史総合」 2単位

3年次 「公共」 2単位 (他教科との選択科目として政経2単位)

 

 専門高校では、現行教育課程の「日本史A」と「地理A」の学校選択を考慮しなくてよくなり、地歴・公民の履修科目はシンプルになる。

 3年次3学期の授業時数が少ないことを考慮すれば、授業時間の不足が予測される「歴史総合」は、1年次か2年次の履修が適切である。地理と歴史の年次に関しては、両者の学習内容(中学を含め)の比較と生徒の発達段階を考慮して、1年次に「地理総合」、2年次に「歴史総合」を履修する方が適切と考える。専門高校は、公務員等の就職試験があり、3年次の授業時数が少ないことも考慮すると、3年次で「公共」の履修が良いのではなかろうか。また、政経を他教科と含めた選択科目とすることも考えられる。

 前記の私案は中学校の教育課程(1年次地理的分野・2年次歴史的分野・3年次公民的分野)でもみられるのではないか。

 

2025(R7)年度大学入学共通テスト(2025年1月実施)の地歴科・公民科の概要(2020.10.22)と専門高校地歴・公民科教育課程編成

 2022年度入学生から新学習指導要領による授業が始まる。2022年度入学生の教育課程は、2021年度中に編成されるので、大学・高校の意見を聞いた上で、2020年度中に、2022年度入学生が3年生になる2024年度の共通テストの再編を公表しなければならない。

 2024年度実施の共通テスト素案では、30科目を21科目に再編し、「簿記・会計」と「情報関係基礎」がなくなり(10.22の朝日新聞の報道で判明する範囲内)、「情報」が新設される。また、英語の民間試験導入はなく、「引き続きリーディングとリスニング」となる。

 地理歴史科、公民科は、専門高校卒業生も考慮し、必履修の「歴史総合」「地理総合」「公共」を組み合わせて、以下のように出題される。

【地歴科】

「歴史総合」は従来の日本史Aと世界史Aの範囲(近現代史中心)である。

○「歴史総合2単位」「日本史探究3単位」共通性のある2科目で計5単位

○「歴史総合2単位」「世界史探究3単位」共通性のある2科目で計5単位

○「地理総合2単位」「地理探究3単位」共通性のある2科目で計5単位

「歴史総合2単位」「地理総合2単位」「公共2単位」異質な3科目から2科目選択で計4単位

【公民科】

○「公共2単位」「倫理2単位」公民科の2科目で4単位

○「公共2単位」「政治・経済2単位」公民科の2科目で計4単位

2023.2.13更新

 

 専門高校は就職をメインにしているが、大学進学者が増加している。新教育課程が2022年度から始まり、2022年度の入学生が3年生となる2025年度(令和7年度入試。2025年1月実施)の大学入試共通テストにも対応しなければならない。共通テストと2022年度入学生の教育課程編成(地歴・公民科)との関係をどのように考えればよいか。

 専門高校では専門科目を多く履修するため、地歴科、公民科に必履修科目以外の科目を設定したり、増加単位を設定した教育課程は編成しにくいのが実情である。大学入試センター素案では、専門高校生が必履修科目のみで受験科目にできるように考慮しており、必履修科目のみの組み合わせである{【地歴科】○「歴史総合」「地理総合」「公共」}が選択可能となっている。

《参考》専門高校の教育課程で選択が容易な選択。

[【公民科】]

○「公共2単位」「倫理2単位」公民科の2科目で4単位

○「公共2単位」「政治・経済2単位」公民科の2科目で計4単位

 

[【地歴科】を含む選択]{〇「歴史総合2単位」「地理総合2単位」「公共2単位」異質な3科目から2科目選択で計4単位}

○「歴史総合2単位」「地理総合2単位」異質な学習内容の2科目で計4単位

○「歴史総合2単位」「公共2単位」異質な学習内容の2科目で計4単位

○「地理総合2単位」「公共2単位」異質な学習内容の2科目で計4単位 

 

《地歴科・公民科から1科目だけを課す大学》 

 専門学校のセンターの対策として、他教科の科目との選択で「政治・経済」(又は「倫理」)を履修可能とする教育課程の編成が考えられる。この場合、{【公民科】○「公共2単位」「政治・経済2単位(又は「倫理2単位」)」}が選択可能となる。また、「公共2単位」「政治・経済2単位」は計4単位であり、普通科の{【地歴科】○「歴史総合」「日本史探究・世界史探究・地理探究」}の計5単位より単位数が少なくできる。

 過去問では、平均点において「倫理」が「政治・経済」より高い(「倫理」の難易度が低い)。

《地歴科・公民科から2科目を課す大学》

 他の1科目は{〇「歴史総合2単位」「地理総合2単位」「公共2単位」}から{「歴史総合2単位」「地理総合2単位」}を選択しなければならない。また、他の1科目を【地歴科】(日本史探究・世界史探究・地理探究)からの選択が課せられる大学には探究科目の学習が別に必要となる。

2023.2.13最終更新

   


総合学科

 文科省は、平成5年(1993年)、普通科、専門科(農業・工業・商業・家政科など)を総合した総合学科を創設した。山口県内では、平成10年(1998年)山口県立宇部西高校の普通科・専門科(園芸科・造園土木科)を閉科して、最初の総合学科が開設された。


宇部西高校募集停止問題

「宇部西 24年度募集停止」(『朝日新聞』2022年(R4)10月5日)

 「(山口) 県教委は(10月)4日、2026年度にかけての県立高校の再編整備計画案を県議会文教委員会で示した。24年度に宇部西高校の生徒募集を停止し、25年度に厚狭高校(山陽小野田市)と田部高校(下関市)を統合するなどの内容」。「小規模校の役割を軽視している」と県議や教員から反対の声も聞かれた。」

朝日新聞「やまぐち」面。2022.10.5
朝日新聞「やまぐち」面。2022.10.5

「宇部西募集停止案に反発」(『朝日新聞』2022年(R4)11月2日)

 「宇部西高校の生徒募集停止の方針を示した県教委の高校再編計画案に、地元から異論が上がっている。説明会で計画の見直しを求める意見が相次ぎ、同校の卒業生らは「宇部西高校を存続させる会」を立ち上げた。(朝日新聞2022.11.2)

 県教委が宇部市で10月27日に開いた説明会で参加者から計画への批判や反対が相次いだ。

2022.11.6更新 

 

「宇部西募集停止「市民に説明を」高校再編で宇部市長」(『朝日新聞』2022年(R4)12月23日)

 宇部市の篠崎圭二市長は、12月21日、「決して望ましいことではない。地元の声を受け止め、県教委としての考えを示して頂きたい」、「まだ納得していない市民がいるのが事実。市民の疑問に答え、希望に応えられない理由も説明して頂きたい」と話した。

2023.1.9

 

県立高校の再編整備計画 大きな修正なく策定 教育委員会会議で承認。卒業生ら反発(『朝日新聞』2022年(R4)12月24日)

 12月23日にひらかれた12月教育委員会会議で宇部西高校の24年度からの生徒募集停止などが計画通り承認された。

 「繁吉健志教育長は会議の中で「少子化の波は思いをはるかに越えて押し寄せている。新しい時代に対応した学校づくりを今進めないと、山口県教育の未来はない」と理解を求めた。」

 計画策定を受け、「宇部西高校を存続させる会」と「高森みどり中を存続させる会」の会長は「押し通された」、「事務的に決められた」とコメントを出し、卒業生たちは、「結論ありきの計画だ」と怒りの声をあげた。  

朝日新聞「やまぐち」面。2022.12.24
朝日新聞「やまぐち」面。2022.12.24

《なぜ反発されるのか》

 計画では、岩国高校と下関西高校に中学校を併設して小中学校卒業生の県外への流出を防ぐことや文科省が進める探究科を進学実績のある大規模校に設置することなどを含む教育方針になっている。このことから、教育長の言うところの「山口県教育の未来はない」という言説は、東京大学や医学部に進学する偏差値の高い優秀な生徒の県外流出を防ぎ、大規模校を中心とした教育体制を強化することに主眼が置かれていることがわかる。

 児童・生徒の県外流出の課題解決は必要であるし、進学体制を充実させることに県民は反対しないはずである。今回の計画の問題点は、進学重視一辺倒であり、地域社会を支える人材の育成に目を向けていない教育行政にある。県内から大都市部の難関大学に進学した生徒は、卒業後は日本の社会に貢献するが、山口県の人口が激減しているように山口県の社会に貢献するとは限らない。むしろ農・工・商・家政などの専門高校や宇部西高校などの総合学科の高校の卒業生が県内に残り地域社会を支えている。医学部進学者に関しては、山口大学医学部が県内医療の維持のため、県内高校卒業生枠を設けた推薦制を拡充する努力を続けており、医師が県外流出した危機は緩和されている。

 かつて、山口県は、東京一極集中の中で、県内の発展を維持するため、「東京卒業」、「東大がすべてではない」として県外への人材流出に歯止めをかけようとしてきた。今回の計画は、進学実績が落ちたことにより、あわてて、「ゆとり教育」からの転換を図る遅すぎた策定である。これまで文科省の「ゆとり教育」の方針を忠実に実施してきたことへの功罪を総括して評価し、県民に示して説明する過程が欠落したまま拙速に計画を策定した。定期的に転換する文科省の教育行政に対し、猫の目のように教育行政を変更するのではなく、私学の動向なども見極めたうえで、長期的な教育戦略を立てることが必要である。

 文科省が「ゆとり教育」を推進しても、大学入試制度や入試問題の難易度は変更がなかったため、進学実績のある私立の中高一貫校は「ゆとり教育」を「チャンス」と判断し、公立中・高校と差別化して土曜日授業などを継続実施して学力を低下させなかった。文科省の「ゆとり教育」に面従腹背して教育方針を大きく変更しなかった他県の教育委員会の中には公立高校の進学実績を落とさず、県民や生徒の利益を守った自治体も多くあった。こうした「賢い県」と比較すると、「ゆとり教育」を全面的に導入した山口県は、東大や医学部合格者数において、極端に進学実績を落としてしまった。このため、近県との距離の近い岩国市や下関市を中心に、進学に意欲的な児童・生徒が進学実績のある近県の中高一貫校へ流出する動きに歯止めをかけることができなくなった。文科省の方針に対し柔軟な対応をとることができず、県民や生徒に不利益を与えた山口県の教育行政が今回の混乱の背景にある。

 今回の計画には、進学も重視するが専門教育も重視する視点がないので、募集停止に反発する地域社会の声に、納得する説明をすることができないと考える。近年の宇部西高校への志願者の漸減に関して、これまで県教委が存続のためにどのような努力をしてきたのか説明する必要がある。「教育は百年の計」である。県教委は、100年以上の歴史を持つ宇部西高校という財産を捨てるのではなく、その伝統と特色を生かし、さらなる百年の道を模索し支援するべきである。このことを通してはじめて「山口県教育の未来」をつくることができると考える。

2023.1.12更新  

 

宇部西高校沿革

  • 1918年4月6日 - 宇部村立宇部実業補習学校として開校
  • 1923年7月24日 - 宇部市立宇部農業補習学校に変更
  • 1925年5月15日 - 宇部市立宇部農業実践学校に変更
  • 1935年10月1日 - 宇部市立宇部農業学校に変更
  • 1938年3月14日 - 宇部市立宇部農芸学校に変更
  • 1944年4月1日 - 県に移管され山口県立宇部農芸学校に変更
  • 1948年4月1日 - 学制改革により山口県立宇部農業高等学校に変更
  • 1949年4月21日 - 山口県立宇部商業高等学校と統合により、山口県立宇部農商高等学校に変更
  • 1953年3月31日 - 分離独立により山口県立宇部農芸高等学校に変更
  • 1967年1月27日 - 造園科設置 
  • 1980年4月1日 - 山口県立宇部西高等学校に変更。普通科設置
  • 1990年4月1日 - 造園科を造園土木科に改組
  • 1998年4月1日 - 普通科・園芸科・造園土木科を改組して総合学科を設置(3学科は2000年に閉科)

(ウイキペディア転写)

 

山口県初の総合学科、宇部西高校

 文科省は、「普通教育及び専門教育を選択履修を旨として総合的に施す学科であり、高等学校教育の一層の個性化・多様化を推進するため、普通科、専門学科に並ぶ新たな学科として」総合学科を創設した。県教委は、1998年(H10)、県内初の総合学科を宇部西高校に設置し、注目を集めた。

 園芸デザインコースでは1月8日の「七草」を前に、市民に好評の春の七草パックの販売をしており、初春の風物詩として毎年マスコミが報道している。

 県内唯一の造園デザインコースがあり、伝統的な日本庭園の「水琴窟(すいきんくつ)」の研究で表彰された生徒もいた。2017年には全国庭園デザインコンクールで国土交通大臣賞(全国第1位)を受賞するなど全国レベルの活動をしている。

 福祉デザインコースでは今後の地域社会になくてはならない介護職員初任者研修修了をめざしている。

 農業祭の流れをくむ11月恒例の西高祭では、シクラメンの販売など市民が実習販売を楽しみにしている。

 県教委は、3学科を閉科して宇部西高校を総合学科に改編しており、宇部西高校存続の責任がある。宇部西高校総合学科の個性化・多様化の教育目標や地域への貢献を考慮せず、統合や分校化もせずにいきなり募集停止にすることに関して、市民からの理解・納得はとうてい得られないであろう。将来介護を受ける可能性のある1人の宇部市民として、宇部西高校の存続の努力を続けてほしい。

 たとえば、文科省は以下のようにデュアルシステムを推進している。県教委は、募集停止ではなく、学校の伝統と特色を生かす工夫をし、新たな教育システムの導入を支援し、自然を保全した緑豊かなキャンパスを存続すべきと考える。

2023.1.9 

藤原辰史「非進学校こそ日本の根幹」(『日本経済新聞』2022年(令和4年)10月12日夕刊)

藤原辰史(ふじはらたつし。京都大学人文科学研究所准教授)。日本経済新聞(夕刊)2022.10.12。画面をクリックすると拡大します。2023.1.11更新
藤原辰史(ふじはらたつし。京都大学人文科学研究所准教授)。日本経済新聞(夕刊)2022.10.12。画面をクリックすると拡大します。2023.1.11更新

急がれる少人数学級の実現

 日本の政治、経済・社会、文化が発展していくためには、基盤となる教育の充実が最も重要である。残念ながら日本の初等・中等・高等教育の現状はOECD加盟国(先進国)で最低水準である(以下の画像)。

 ゆきとどいた児童・生徒の教育を行う上で最も重要なのは1クラスの編成である。萩生田光一文部科学相は、2020年12月17日、公立小学校の1学級の児童数の上限を、現行の40人(小1は35人)から35人に引き下げると発表した。来年度は小2で実施し、今後5年かけ、2025年度までに全学年を段階的に35人以下にする。文科省は中学校も含めた30人以下への要求をしたものの、財務省では教育効果を疑問視する意見が強く、小学校に限り「35人」で折り合った。(『朝日新聞』2020.12.18)

 財務省は財政の視点を重視した政策から少人数学級の導入を認めないが、国の発展が教育にあることを考えれば政策の早急の転換が必要である。国際社会における日本の地位の低下はこのような財政による教育の軽視が具現化してきたためではなかろうか。「教育は百年の計」ということを政官財は考えなければならない。

 この予算では、もはや絶望的な教育行政といえる。公立高校の少人数学級は検討すらされていない。段階的に少人数学級が進められても、高校の35人学級が実現するのは10年後であり、30人学級は20年後になるかもしれない。教員も多忙で意欲を失っている。即時、高校までの30人学級を実現すべきである。

2020.12.27 2022.4.19追記

 OECD 加盟国(先進国)において、小学校(棒グラフ)、中学校(◇印)でクラスあたりの生徒数が2番目に多い。

 さらに中学校の教員の多くが、専門でない部活動の監督や顧問となって多忙を極めている。すべての中学校や高校で、課外部活動にもかかわらず、ほとんどすべての種目の運動部や文化部をそろえて生徒に提供することは弊害が大きいのでやめるべきである。体育や専門の先生が希望して指導できるか、外部委託が可能な部活に限って部活動を実施することが、生徒、教員、学校の教育環境の改善につながる。

 オリンピックやプロスポーツ選手育成の機能を中学・高校の部活動にビルトインさせてはならない。たとえば中国では体育学校で選手を育成している。韓国では、各地域の強化校に選手を集中させ、地方大会はせずに全国大会で強化している。「文武両道」とはなにかを真剣に考え、「文武両道」と安上がりな教員と学校に負担を求めるオリンピック強化はやめるべきである。

2022.4.19追記

 



不破雷蔵「諸外国の軍事費・対GDP動向をさぐる(2020年公開版)」2020.5.10より転写。
不破雷蔵「諸外国の軍事費・対GDP動向をさぐる(2020年公開版)」2020.5.10より転写。

 政府の説明は、憲法9条で「戦力の不保持」を規定しているものの、国際法でみとめられている「自衛権」にもとづき、「戦力」以下の「自衛のための必要最小限の実力」の範囲で装備をするとしている。それでも世界9位(総額)の防衛費を計上している。一方で、資源が乏しく、人材の育成が課題である日本の教育費がOECDで39位(GDP比)の公的支出という実態がある。早急に教育費を増額しなければならない。

 小中学校の30人学級の実現には5000億円以上の予算が必要だが、イージスアショアの配備は秋田と山口で総額6000億円以上と防衛省は試算している。イージスアショアの配備計画は停止されたが、戦争を放棄しているにもかかわらず防衛費は即座に予算化され、日本を支える日々の教育に対しては、いろいろ理由をつけて増額を許さない政府・財務省の在り方はいかがなものであろうか。

2020.12.30更新


 教職の満足度が世界最低である。これは前記の教育環境のためである。良い教育を実現するは、優秀で情熱ある教員を採用することが重要である。そのためには教員の待遇改善が急務である。

2021.1.28更新


《普通科教育課程例》

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